『鼓膜』演出家インタビュー

本番まで残り10日を切りました第7回公演『鼓膜』。今回の公演は今までと違い、作・演出を吉屋太一が担当します。どのような作品作りをしているのか、これまでとの違いや今作の今作の見どころなど、吉屋太一へインタビューをしてみました。
(聞き手:廣瀬穂波美)


写真1:『鼓膜』稽古より 演出家 吉屋太一

Q.今回のテーマは?

全体として「音と命、死」を題材にした舞台です。2021年の『空に残す』を作っていた時点で、次は「音が残る」という話をしようと思っていました。

Q.なぜそういったことをテーマにしようとした?

音が残っていたら 面白いな、と思ったからです。
例えばやまびことか、現実世界では少しずつ音は小さくなっていきますが、でも0にならない。昔誰かが発した言葉や音は地球上のどこか、ものに反響し続けていたら面白いと思っています。
あとは死ぬことの怖さ。死んだ後に何も残らないことをずっと怖いと思っていて、「(死んだら)何も残らないかもしれない」、「でも、もしかしたら音が残るかも」ということを考えています。それらを上手く組み合わせられたらと思っています。

Q.このテーマだからこその見どころは?

演出や振り付けに様々なメタファーをちりばめています。例えば、ものを置く動作について、「線香を立てるように」という演出指示をしたり、などです。死に対する明確な、決定的な救いはないと思っていて、その解決策、一時的な救いとして「宗教」や「信じること」に関するメタファーを入れています。死という課題における解決策みたいなものですかね。今回は「音教」という仮想宗教の祈りなどを盛り込んだりもしています。音が救いという感覚ですね。

写真2:『鼓膜』通し稽古より

Q.「音教」という話もあったが、現実にないものだからこその苦労した点は?

私はもともと演劇の人ではないので、現実にないものより現実的な部分の方が苦労しました。例えば現実会話、普通の会話の方が自分の引き出しになく、作りにくかったです。逆に抽象的な方が自分の中に引き出しがあったので書きやすかったです。

Q.テーマについては具体的だった?

そうですね、初期のうちから具体的でした。

Q.演出面で苦労したのは?

舞台の作り方はいろいろあると思いますが、脚本から書くとジャグリングがあと付けになると考えていました。まあ、今回は脚本から書いたんですがね。もちろん、演出を考えながら脚本を書いていきましたが、先に固まったのは脚本です。書く時には演出が脚本の邪魔にならないように、脚本と演出が助け合うようにというのは考えていました。

その中でもジャグリングのパフォーマンス的なシーンを入れ込んでいくというのが難しいと感じました。前回の『空に残す』は抽象的でしたが、今回の『鼓膜』はそれよりは具体的だと思います。具体的な部分とジャグリングをどう混ぜていくかが難しかったです。ジャグリング、お芝居の繰り返しがやりやすいのですが、やりやすいだけに別々感が残ってしまうんですよ。混ぜたら混ぜたで、ジャグリングを見るにはお客さんの集中力が必要なのでキャパオーバーしてしまうと思いますし。どこを伝えたいのか、でもジャグリングを見せたい、の割合を考えるのに苦労しました。

写真3:『空に残す』(2021年) より

舞台づくりの面でいえば、集団の動きが多い舞台かなと思います。演者のカウントも細かくとらないといけないですし、やることが多いのですが、それをやったからこそできている部分もあります。今回はソロが少なく集団演技が多いです。僕自身がアンビエントミュージックが好きなので、そもそもカウントを取りにくい曲をつかってることも難しくなっているかもしれません。

今回はコロス(※1)、ジャグラーがしゃべるので、雰囲気を損ねない使い方・量を心がけています。今回の舞台ではジャグラーに発話をお願いしていますが、今回の舞台は「音」がテーマなので舞台上のいろんなところから音が放たれている演出を作りたかったためにこのようにしました。フラトレスとしても、匿名なコロスが地の文を読んだり、舞台状況を説明、盛り上げ、効果をつけるための発話ができたら演出の幅が広がると思っています。役者以外の自由に話せる人がいるのを無限に使えるという状況が、フラトレスでできればとおもい、発話をお願いしました。(※2)

Q.お客さん目線での見どころは?

今までのフラトレスの平均よりはお客さんを選ぶ舞台だと思うし、選べばいいとも思っています。ですが、どの程度お客さんを拾い、自我を通すのかの調整は現在進行形で気を遣っている部分です。エンターテイメントに寄っているわけではないが、幅広く楽しめる作りにはしています。具体的には、「見続ける理由がある」つくりです。
今回の舞台は、演出やテーマ、土台、バックグラウンドにあるものが万人受けしないので、観ていてスカッとするものではないと思っています。

Q.お客さんに見てほしい部分は?

ピンポイントにここだというポイントはないのですが、ジャグリングを頑張っているシーンや、観ていて気持ちいいであろうシーンはあります。一方で、1個のシーンを引き立たせる演出にしておらず、全体を見終わって「ああ、なるほど」となるつくりになっています。
先日、友人と「面白いとは?」という話をしたのですが、「つまらなくないこと」だという話になりました。シーンの面白さというよりは「つまらなくない」を続けている、見続ける理由があるような構成にしています。「するめタイプ」ですかね。終演後にお客さんにじわっと残ってくれればありがたいです。

Q.最後に何か一言

フライヤーデザインにもこだわりました。よければ表紙を見てみてください。

写真4,5,6:『鼓膜』通し稽古より

最後までご覧いただきありがとうございます。
ぜひ12/9(土)-10(日)の本番にもお越しください。詳細・ご予約は特設ページにて。


(※1) コロス(英:chorus)…注釈古代ギリシャ劇の合唱隊。劇の状況を説明するなど、進行上大きな役割を果たす。現代においては劇中の「名もなき群衆」で、ある程度統一された意志や見解、感情を持った一団を指す。

(※2) 当団体の過去公演でもコロスが言葉を話すという事例は複数例あったが、使い道などは今作と異なる。